税務調査が活発に行われています。
うちには連絡きてないから今年は大丈夫と思われている方、まだまだ安心できません。というのも、11月くらいまでは連絡があったりするためです。
今回は、好き嫌いにかかわらず、ビジネスをしている以上避けられない税務調査について解説します。

1.強制調査と任意調査

よくいわれることですが、税務調査には、強制調査と任意調査があります。
強制調査は、国税局査察部が裁判所の令状をもって行い、その対象は脱税の疑いがある先です。脱税といっても少額の脱税先に対して行われることはなく、およそ1億円以上の脱税が見込まれる先を対象にします。
任意調査は、それ以外の税務調査で、税務署や国税局調査部が行います。任意と言っても、国税通則法による質問検査権に基づいて行われるので、本当は任意というわけではありません。
ちなみに、国税局と税務署の違いについて説明しますと、
国税局は国税庁の直下に位置づけられ、全国11の国税局が配下の税務署を指導監督するとともに、査察や資本金1億円以上の大規模法人等の税務調査を行います。税務署は各地域に置かれ、中小規模法人及び個人の税務調査を対象にするという役割分担になっています。

2.調査対象になりやすい先

 課税庁のマンパワーでは、すべての納税者を調査することはできないため、一定の基準をもって調査対象先を選定しています。選定基準は公表されていませんが、以下のような納税者は選定される可能性が高いと言えます。

(調査対象になりやすい先)
・過去の調査で誤り・不正の指摘を受けた
・業績の変化が激しい
・還付申告・・主に消費税

3.税務調査の確率

国税庁は、申告件数と税務調査件数を公表しているので、そこから税務調査の確率を算定できます。
2022年度のデーターによると、以下のとおりです。
割合化すると調査確率は低いように見えますが、2で述べたような調査対象になりやすい先の調査確率はそれなりに高いです。

(税務調査の確率)

  ★法人税313万件のうち6.2万件2%、うち修正対象76%

★所得税653万件のうち3.6万件0.6%、うち修正対象87%  

4.税務調査の時期

国税局は1年間いつでも税務調査を実施しています。
他方、税務署は春と秋に集中して行っています。
年明けは所得税確定申告の繁忙期にあたること、毎年6月に職員の人事異動があるためです。


(税務調査の主な時期)
・確定申告明けの4~5月
・人事異動明けの7~11月

5.税務調査の流れ・・税務署の場合

税務調査の流れは、以下のとおりです。

(税務調査の流れ)

  事前通知→調査日の日程調整→事前準備→調査当日→決着  

①事前通知
 税務署から電話にて税務調査を行いたい旨の事前通知があり、調査対象者、税目、対象年度等について告知を受けます。
 飲食業や小売業の場合、事前通知が省略される場合があります。
 税理士に申告書作成を委任し、「税務代理権限証書(委任状)」を確定申告書に添付しているときは、税理士に連絡があります。

②調査日の日程調整
 事前通知と合わせて、調査日の日程を調整します。
 税務署は、調査希望日の2~3週間前に事前通知をしますが、先方の希望日が都合つかないときは別の日というふうに日程調整します。
 税務調査日は、数日~規模が大きいと数週間を要するので、会社の経理担当者(個人の場合は事業主)、顧問税理士など、参加者全員の日程調整は大変です。
実務的には、フルタイムの面談は不要なので、調査日の前半、中日、後半に面談日(時間)を設定し、後は帳簿・書類を閲覧いただく等、の対応をします。

③事前準備
 調査対象期間(通常は過去3年分)の帳簿・書類を準備し、年度別に争点になりそうな項目を拾い出し、顧問税理士と対応を協議します。
 特に優遇税制(賃上げ促進税制、設備投資税制等)の計算内容に関しては必ずチェックを受けるので、数値の根拠や調書を整理しておきます。
 帳簿・書類の整理・保存がきちんとできていれば、慌てることはありませんが、準備しておく帳簿・書類の例を示すと以下のとおりです。
 また、事前に税務調査官に用意しておく書類を確認しておくのもよいと思います。

<準備しておく帳簿・書類の例>
・税務申告書一式、総勘定元帳、通帳、請求書、領収書、給与台帳、契約書、議事録

④調査当日
 税務調査は、調査官が会社又は事業所を訪問する形が多いですが、その場所がないなどのときは、予め書類を税理士事務所に持ち込みした上で、事務所にて行うこともあります。
 最初は、事業の概要や社長の経歴の聞き取りから始まり、具体的なビジネスモデルの説明、そして帳簿・書類の閲覧や質問等になります。
 調査官は、その道のプロなので、雑談の中から必要な情報を引き出すのがうまいです。
ですから、聞かれたことだけ答えるというスタイルが良いと思います。
 また、是認・否認どっちにも転びそうな争点はその場で解決し、できるだけ宿題にしない方がよいです。宿題にした場合、税務署の審理課などが介入し大抵悪い方の決着になることが多いためです。このあたりは、顧問税理士の腕の見せ所になりますが、クライアントの立場からすると、顧問税理士を評価する絶好のチャンスです。専門的なことはわからなくても、先生頑張っている、あるいは、攻められている感じはつかめると思います。
 なお、進行年度の帳簿・書類を求められることもあります。例えば、翌期首の売上の総勘定元帳などです。期末に計上している売上の収益認識が正しいか、チェックするために求められることも多いので、そのあたりのことも念頭においといた方がよいです。
 また、現地調査の開始時間は10時、終了時間は16時、昼1時間休憩が多いです。

⑤決着
 現地調査が終わっても、その後、追加資料や質問を受けたりし、争点についての応酬などを経て最終的な決着をします。
 最低でも数週間、長ければ月単位の時間がかかることになります。

6.修正の方法

税務調査には、申告是認、修正申告、更正という3パターンの決着方法があります。
何もない申告是認のケースは少なく、修正すべき項目があるときは、税務署からの慫慂に応じて修正申告するのが一般的です。税務署は更正処分をする手間や後日の不服申立てを避けられるメリットがあるので、修正申告を求めることが多いです。納税者としては修正申告に応じた場合のメリット(多少のおまけ)とデメリット(不服申し立ての放棄)を比較した上で、修正申告するか、応じないで更正を受けるか、の対応を決めます。

 (税務調査の決着方法)
・申告是認:申告内容に何も問題がないこと
・修正申告:修正項目について納税者側から修正の申告をすること
・更生:修正項目について税務署が課税処分を行うこと